子の奪取に係る英国の法制
英国では、父母のいずれもが親権を有する場合に、一方の親の同意を得ることなく他方の親が国外に子供を連れ去ることは刑罰の対象となります。また、連れ去り行為は連れ去った親や残された親のみならず、子供にも大きな影響を与えることとなります。 ついては、子の奪取に係る英国の法制(※)について下記の通りまとめました。
※このページでご紹介する法令はイングランド及びウェールズにおいてのみ適用されますが、スコットランド及び北アイルランドでもほぼ同じ内容の規定があります。
1. 民法
Children Act 1989は、未成年の子に対する親権(parental responsibility)は両親に帰属するとしています(両親が婚姻している場合)。両親が離婚した場合にも基本的には父母の親権は存続し、引き続き子の養育に責任をもちます。また、裁判所は子の利益を最優先に検討した上で、様々な命令(orders)を下すことができ、代表的な命令には、Child Arrangements Ordersがあり、「子が誰と生活するか」「子がそれぞれの親といつ時間をともに過ごすか」「子といつ、そしてどのような手段で連絡を行うか(例えば電話など)」が決定されます。
子と生活を共にする親権者は、特別の命令がない限り28日以内であれば、事前の裁判所の許可もしくはもう一方の親の同意を得ずに子を英国外に連れ出すことができますが、28日以内に子が英国に戻ってこなかった場合は、子の不法な留置(wrongful retention of the child)とみなされます。裁判所は、「子の奪取」の恐れや疑いがあると判断した場合には、Prohibited Steps Order(子の国外連れ出しを制限するもの)を命じることができます。
2. 刑法
Child Abduction Act 1984は、親権を持つ片方の親を含む「子と関連する者(a person connected with a child)」が、他に親権を持つ者の同意なしに16歳未満の子を英国外に連れ出した場合は刑法上の罪(子の奪取:child abduction)を構成すると規定しています。たとえ両親が離婚していたとしても、通常もう片方の親も引き続き親権を有していますので、「子の奪取」が成立する可能性があります(裁判所が子を国外に連れ出すことについて許可している場合はこの限りではありません)。
「子の奪取」で有罪とされた場合、略式手続による場合は6ヶ月以下の拘禁刑若しくは罰金又はその両方、正式手続による場合は7年以下の拘禁刑に処されます。例えば、英国に住んでいる日本人親が他方の親の同意を得ないで子を日本に一方的に連れて帰ると、たとえ実の親であっても英国刑法に違反することとなり、英国に再渡航した際に犯罪被疑者として逮捕される場合がありますのでご注意下さい。
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