館員エッセー (2)

 

防衛駐在官としての英国滞在

 

 

防衛駐在官・一等海佐 水間貴勝

 

 

 

 

2007年2月

在英国日本国大使館

防衛駐在官・一等海佐 水間貴勝

 

 

海上自衛隊の艦艇乗りである私にとってグリニッジやポーツマスといった海軍縁の地を訪ねる度に英国勤務の実感を強めています。また、約10年前の英軍学校への留学以来、二度目となる英国勤務を防衛駐在官(Defence Attache)として経験できることはこの上ない喜びです。

 

防衛駐在官という役職は、一般的にはあまり馴染みの無いものではないでしょうか。防衛駐在官は、防衛省から派遣された自衛官(英国には海上自衛官が派遣されています)であり、その仕事は主に自衛官としての経験などを活かしてイギリスの国防省や陸海空軍関係者及び在英の各国の駐在武官との交流を通じて軍事情報の収集をしたり、広く日本の安全保障政策や自衛隊の活動などについて正しく理解してもらえるように努めることです。

 

国際的には駐在武官と呼称し、大使館などに勤務する軍人である外交官を指します。この意味では、防衛駐在官は大使館で勤務している他の外交官とは全く異なった存在です。特徴的なのは、私の仕事の多くが他の外交官には見られない駐在武官団という大きな外交団を通じて行なうことです。

 

特に世界の中でもロンドンの武官団の規模は非常に大きく、陸・海・空軍ごとに各武官団を構成しており、3軍種を合わせると世界各国から約200名にも及ぶ武官が集まって来ています。歴史的にも、また現代においてもあらゆる面で国際社会に大きな影響力を与え、多くの情報が集まってくる世界の中心のひとつである英国という国柄を考えれば、これはごく自然なことでしょう。この武官団を通じてのほとんどの外交活動は、夫婦単位が基本であることから、必然的に日本にいる頃に比べると夫婦で行動する時間が格段に増えました(!!)。また、武官団の行事には家族を含めた活動が多くあることや相互に自宅に招く機会もあり、武官団の交流は、他のどの外交団活動に比べても、より深く、濃いものだと思います。たとえ軍種が異なるとしても軍人としての誇りを持ち、軍人だからこそお互いに理解し合えるという独特なコミュニティーでもあります。家族ぐるみで国際交流ができるというのも武官団としてのメリットでしょう。

 

 

ウエスト海軍参謀長夫妻と水間防衛駐在官夫妻(2005年2月)
ウエスト海軍参謀長夫妻と水間防衛駐在官夫妻(2005年2月)

 

 

さて、ともに海洋国家である英国と日本の安全保障に関連した交流史は、海軍を通じたものにも多く見られます。例えば、ネルソン提督のトラファルガー海戦から100年後の日本海海戦(1905年)で有名な東郷元帥は、英国で長年学び、当時の旗艦「三笠」は1899年からバロー・イン・ファーネスで建造されました。この町には「MIKASA」という名前の通りが今もなお存在している程で、艦そのものは記念艦三笠として横須賀に保存されています。

 

また1917年には、日英同盟に基づく英政府からの要請に応え、日本政府が英船舶の護衛のために日本海軍特務艦隊を地中海に派遣しました。マルタを基地としたこの特務艦隊の目覚しい活躍に対し、当時の英国王ジョージ5世から勲章を授与されました。これは、日英の安全保障関係史上、日本による英国への最も輝かしい貢献と言えるでしょう。

 

私が赴任してからの海軍関係でのビッグ・イベントはなんといっても2005年にポーツマスで行われた、トラファルガー海戦200周年記念の「国際観艦式(International Fleet Review)」です。これには、我が海上自衛隊の練習艦隊3隻も遠洋航海の途中に参加し、英海軍のみならず参加国のNavy to Navyの友好親善に大きく寄与しました。練習艦隊の威容と隊員の士気の高さは、当地の新聞にも写真付きで掲載され、英海軍の友人や各国の海軍武官などから絶賛され、まさに武官冥利に尽きました。異国の地、ポーツマス港に入港してくる自衛艦の雄姿は忘れられない感動のワン・シーンです。

 

 

自衛艦より女王陛下に21発の礼砲発射 (国際観艦式。2005年6月)
自衛艦より女王陛下に21発の礼砲発射 (国際観艦式。2005年6月)

 

 

勿論、英海軍と海上自衛隊の関係ばかりではありません。陸上自衛隊と英陸軍、航空自衛隊と英空軍の関係も、単なる防衛交流に留まらず、現在ではイラクにおける活動などを通じて一層深化しています。今後ますます国際社会の平和と安定のための活動に積極的に関わっていく自衛隊にとっては、平和維持活動などの分野で豊富な経験を有している英軍との関係を強化していくことはとても重要です。

 

防衛駐在官として常に感じさせられることは、仕事の上で私と繋がりのある皆が、それぞれ祖国の事情は異なってはいますが、自国の国防や世界の平和と安定について真剣に考え、この実現のために地道に努力しているということです。そういった意味では、各国相互の理解促進や信頼関係の構築について、外交活動上ほんの一部であるかも知れませんが武官団を通じての人と人との関わりの積み重ねが生きてくると思います。今では海外の何処かで大きな出来事があると直ぐにその国の武官夫妻の「顔」が浮かんできます。今後もここイギリスで、また、日本に帰国してからも、私ども夫婦の財産である素晴らしい武官仲間や英軍クラスメートとの友情を大切にしつつ、日本の安全と世界平和に貢献したいと考えています。

 

 

安倍総理の欧州ご訪問時の政府専用機とともに(ロンドン・ヒースロー空港 2007年1月)
安倍総理の欧州ご訪問時の政府専用機とともに
(ロンドン・ヒースロー空港 2007年1月)