館員エッセー (3)

 

Tokyo-New Delhi-London

 

 

 

 

 

 

2007年5月

在英国日本国大使館

公使 高岡正人

公使 高岡正人

 

 

ロンドンに赴任して、この夏で2年になります。

前任地のニューデリーでは、台頭著しいインドと日本の関係を強化することが政務公使としての大きな課題でした。これは、とてもダイナミックで手応えのある仕事でした。アジアの中で大国と言えば、日本、中国、インドです。だから、日印の絆を強固にすることは、自ずとアジアの戦略的構図に影響を及ぼすものです。従来、日印関係は必ずしも緊密ではありませんでしたが、今や日印関係は上昇気流に乗っています。首脳レベルの交流も活発に行われ、政治面で見ると国連安保理改革、アジアの地域的枠組み作り、シーレーンの安全、不拡散、テロ防止など、日印間の対話と協力の幅と深みは見違えるほどになっています。これは日本外交にとって重要な資産になると嬉しく思っています。

 

さて、ロンドンでの仕事の視点はデリー時代とは大きく異なります。一言で言えば、グローバルでとても洗練されているということです。本年1月の安倍総理のロンドン訪問の際に発表された日英共同声明では、日英両国が取り組むべき最優先課題として、国際安全保障と並び、経済公使として自分が担当する気候変動、国際開発、科学技術・イノベーションという三分野が特定されています。これを見ても、日英関係のグローバルで先進的な性格が見て取れます。

 

開発問題に対する日英間の協力は幅広いものがあります。例えば、バングラデシュでは、最大援助国である日英は世銀、アジア開発銀行と共に共同戦略パートナーを組み、常に援助政策の摺り合わせを行い、同国政府と間で詳細なやりとりを行っています。1月に非常事態宣言が発令されてから、次期総選挙に向けての選挙管理内閣の取り組みも日英にとって重要な関心事項です。日英はアフガニスタンでも主要援助国であり、その他アジアではベトナム、ネパール、パキスタン等でも現地で連携を行っています。アフリカではタンザニア、ガーナといった国々が日英共通の重点国です。日本はイラク復興支援のために巨額のコミットメントを行っていますが、その実施に当たり、南部バスラ周辺で英が主導する地方復興チーム(PRT)との協力も進められています。

 

援助に対する日英のアプローチに若干の差異はあります。単純化して言えば、英国は、保健衛生、教育と言った基礎的な社会ニーズに重点を置いているのに対して、日本は経済成長やインフラ支援への取り組みを得意としています。日本の場合、東アジアにおいて道路、港湾、鉄道、空港、発電、職業訓練をはじめ広範な開発支援を行ったことが、民間投資の呼び水となり、それが経済成長につながったとの実績があります。前任地の話に戻りますが、インドでは、大量高速輸送システム「デリー・メトロ」の建設のために日本のODAが使われていることは特に有名で、これは交通渋滞と大気汚染に悩む首都デリーの都市機能向上に大きな役割を果たすものと高い評価を得ています。2005年4月に小泉総理(当時)がデリーを訪問された際、インド国会議事堂すぐそば(ロンドンで言えばウエストミンスターのようなところ)の地下鉄駅工事現場を視察して頂きました。インドが今まさに大きく飛躍しようとしているところに日本が協力の一端を担えることは誇りに思います。

 

一方、開発問題について、英国はアフリカなどで豊富な経験の蓄積があり、日本として学ぶことは多々あります。また、アイデア溢れる英国は次々と政策イニシアティブを打ち出しており、目が離せない存在です。勿論、日本も、水、防災、環境保全などで世界をリードする存在です。日本がアフリカに1000万張の蚊帳を提供していることがマラリア発生率の低下に大きく貢献していること、ノーベル平和賞を受賞したモハメド・ユヌス氏と彼のグラミン銀行が行うマイクロファイナンス活動を日本の円借款が支援していたことなど、日本なりのユニークな取り組みは枚挙に暇がありません。ただ、現在、日本ではODAに対する目が厳しく、また、困難な財政事情もあり、ODA予算の確保に苦労している中で、英国では政治、世論からの追い風を受けて、開発予算が顕著に伸びていることには、強い印象を受けます。英国が1980年代から90年代にかけてのODA疲れから脱却し、現在に至った経路は日本にとって参考になるところもあるかと思います。

 

以上見てきたとおり、日英は開発問題についてお互いに刺激しあい、協力する関係にあります。日本は、2008年にアフリカ開発をテーマとする首脳レベルの国際会議(第4回アフリカ開発会議:通称TICADⅣ)、更にはG8サミットという二つの大きな外交行事を開催することになっています。アフリカをはじめとする開発問題は、世界の安定と繁栄を考える上では避けて通れません。この分野で日本が英国と連携していくことは大変重要です。