館員エッセー (5)

 

日英開放度を比較すれば

 

 

 

 

 

 

2007年10月

在英国日本国大使館

公使 西塔雅彦

公使 西塔雅彦

 

 

「この国は本当に開かれている。不思議なくらいだ。」こちらでの私の偽らざる感想です。

私は2年前にロンドンに来ましたが、それまでは経済産業省で貿易・投資の振興を担当しておりました。とりわけ対日投資促進が重要課題でした。当時、ホリエモンこと堀江貴文氏率いるライブドアがニッポン放送を買収しようとする事件が起きました。その際、さる外資系の金融機関からファイナンスを受けていたことなどから、その事件を契機に、外資を巡っていろいろな議論が起きました。そういうこともあって、“三角合併”の導入のための商法改正など非常に苦労をしたのですが、もう少し英国の事例を研究しておけば良かったと思った次第です。

 

当館のエコノミストが日英の経済の開放度に関して面白い分析をしてくれましたので、紹介したいと思います。

 

1. ヒト

いろいろな数字があるようですが、英国への移民はネットで約34万人(2004年)。日本へは約9.4万人。日本の人口は英国の2倍ですから、人口比では英国は日本の7倍となります。EU域内の人の移動が原則自由であることを考慮しても、この数字には驚かされます。

 

2. モノ

モノの輸出入をGDP比で表すと、英国は輸出、輸入ともに概ね20%前後。対する日本はおよそ10%前後。モノにサービス、投資収益を加えた経常収支ベースでは、英国は(受取り、支払いとともに)概ね40%。日本では15%前後。英国の方が貿易依存度がはるかに高かったとは!

 

3. カネ

対外資産と対外債務については、英国はそれぞれGDP比で約4倍。日本は対外資産はおよそ等倍、負債は0.6倍。

対内直接投資(ストック)に限っても、英国はGDP比で約3割。日本はわずか2.5%。

シティでの金融取引が世界最大規模であることは、今更言うまでもないでしょう。

 

英国の金融市場が、「ウィンブルドン現象」と言われるように、主たるプレーヤーが外資であることは良く知られています。エネルギーの分野でも、英国における電力・ガス小売企業の大手6社中4社は外資系です。世界に開かれたマーケットを作り、そこに外資も含めて様々な主体が参加すること、それがエネルギーの安定供給につながる、との考え方です。日本でも、電力・ガス事業の自由化を進めていますが、エネルギー安全保障の観点から外資規制はまだ残されております。

エネルギー事情などの経済環境や歴史的、社会的背景も異なるので、必ずしも英国のやり方がそのまま日本に適合するということでもないでしょう。

大量の移民の流入を背景に、英国内では英国のアイデンティティの問題が起きています。
経済への市場メカニズムの導入は重要な課題です。しかし、英国ではこと公共交通機関の分野では必ずしも成功はしていないようです。サービスの質と料金(地下鉄の最低料金:東京は160円=70ペンス。ロンドン4ポンド=1000円。プリペイドカードで1.5~2ポンド。)の両面で、地下鉄など日本の公共交通機関がいかに素晴らしいか実感しています。因みに、英国の地下鉄では、掲示板にその時の運行状況が表示されますが、“good service”にはいつも疑問を感じます。ただ定時に運行しているだけなのですから。これは日本なら当たり前のことです。

また、経済の開放、市場メカニズムの導入に伴う格差の拡大や、貧困の問題が-最近は日本でも論議されていますが-大きな社会問題となっております。もちろん、だからと言って市場メカニズムの重要性が損なわれるわけではないと私は思いますが。

 

いろいろな議論があるにせよ、私が担当する対日投資の面では、もっともっと日本に外国企業が入っていい。それは日本経済にとっていい刺激になります。消費者にとっての選択肢を増やします。日本政府としては2010年末までにGDP比で5%(ストック)、すなわち4年で倍にしようという計画を持っております。

英国企業による対日投資の最近の事例としては、テスコによるコンビニエンスストア事業への参入があります。今年度中に35店舗展開の予定とのこと。テスコは既に数年前にさる日本のスーパーマーケットを買収しました。将来の新展開を視野に入れつつ、日本における商習慣や消費者ニーズの把握に努めているところと聞いておりました。ようやく飛躍の段階を迎えたということでしょうか。

これまで日本へ進出した流通業の中にはうまくいかなかったものもありました。商品の品質や店員の対応などへの要求水準の高い日本では、Next, please!とClub Card?しか言わない店員では成功はおぼつかないでしょう。是非、日本でのこれまでの経験に、英国企業の持つ日本にはない経営ノウハウを融合させて、日本の消費者に新しいサービスを提供してほしいと思います。そして、日本の流通業、日本経済への大いなる刺激となることを願っております。